廊下を歩いていると、丹羽長秀がこちらに向かって来るのが見えた。
顔をしかめ難しそうな顔をしている。この顔は、困っているのではなく何かを企んでい
る顔だ。秀吉は直感した。
そして、何を企んでいるか必ず秀吉に話す筈である。すれ違い時に、秀吉は軽く頭を
下げた。その時「柴田殿には、お気を付けなされ。」と低い声がした。
その瞬間、秀吉は長秀の手を両手で掴み、「気にはしておりましたが、肝に銘じておきま
す。」と言いつつ、秀吉は、長秀の手を力を入れて掴み、頭を更に低く下げた。
長秀は、迷惑そうにその手を振り払うと何事もなかったように向こうに行った。
秀吉は、手を振り払った時の「長秀の目は、笑っていた」
ことを見逃さなかった。
秀吉は常に「人と言うものは褒められたくて、そして感謝されたくて生きている。」と
思っていた。
柴田勝家が、秀吉に対して色々工作をしていることは、長秀に言われずとも十二分に
分かっていた。
しかし、「相手に感謝されたいと思う時に、相手が感謝しないと却って恨みを買う。」
ことも十分理解していた。相手から深く感謝された時は、施した人の無償の喜びとなる。
以上は、私の好きな司馬遼太郎の本に読んだ記憶を元にした私の創作物語である。
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